
治験コーディネーターは、新薬開発に欠かせない存在です。
しかし、実際の役割や仕事内容はあまり知られておらず、「どのような仕事をするのか」「必要な資格はあるのか」など、疑問を持つ方もいるでしょう。
今回は、治験コーディネーターの仕事内容や1日の流れ、働き方、なり方などを全般的に解説します。
また、治験コーディネーターに必要な資格や年収の目安、向いている人も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
治験コーディネーター(CRC)とは?
治験コーディネーター(CRC)とは、治験のための準備や調整、運営などをサポートする仕事です。
製薬会社が新薬を開発するときには、薬の安全性や有効性を確認するために、薬による治療の臨床試験である治験を行います。
この治験の際に、調整役となるのが治験コーディネーターです。
英語名称であるClinical Research Coordinatorを略してCRCともいいます。
治験コーディネーターのおもな役割は、治験に関わるさまざまな調整です。
製薬会社・医療機関・被験者の間に立ち、各所と協力しながらサポートします。
治験の被験者は「身体に悪影響はないだろうか」と不安やストレスを抱えている場合もあり、そうした心的負担を減らし、治験の進行をスムーズにすることも求められます。
治験コーディネーターの仕事内容
治験コーディネーターの仕事は具体的にどのような内容なのでしょうか。
治験の流れを準備・実施時・終了後と3段階に分け 、各段階での治験コーディネーターの関わりを紹介します。
治験の準備
治験にはさまざまな準備が必要です。
ここでは、以下の3つの準備についてわかりやすく解説します。
- 治験実施計画書の読み込み準備
- ミーティングのサポート
- 検査キットの準備、管理
では、それぞれを見ていきましょう。
治験実施計画書の読み込み準備
治験の際 は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法) と医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP) を遵守する必要があります。
製薬会社は、GCPに基づいて 治験実施計画書(プロトコル) を作成。
治験コーディネーターは事前に治験実施計画書を読み込み、治験の対象疾患や使用される薬についての理解を深めます。
ミーティングのサポート
治験に先立って、製薬会社、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師など治験に関わるすべての人が参加するスタートアップミーティングが開催されます。
治験の詳細説明が行われるこのミーティングの運営サポートも、治験コーディネーターの仕事の一つです。
具体的には、資料作成や議事進行などの業務を行います。
検査キットの準備、管理
製薬会社から医療機関に搬入される検査キットの準備と在庫管理をします。
治験実施時
次の治験実施時の仕事内容として、以下の5つについて見ていきましょう。
- 被験者選考(スクリーニング)
- インフォームドコンセント(説明と同意) の資料・同意書作成、同席
- 被験者のスケジュール管理
- 症例報告書(CRF) の作成補助
- 有事の対応
被験者選考(スクリーニング)
被験者を募集し、治験実施計画書の基準を満たす人を選考します。
募集に際しては、医師からの紹介や病院のカルテなど患者データから検索して依頼する方法や、広告や治験ボランティアサイトで募集する方法が一般的です。
インフォームドコンセント(説明と同意) の資料・同意書作成、同席
被験者に対して事前に治験内容を説明して同意をとるインフォームドコンセントの際に、内容説明をするのは治験コーディネーターの役割です。
最終的に同意をとるのは医師ですが、治験の目的、方法、スケジュールや起こりうる副作用などの詳細は、治験コーディネーターが説明します。
また、説明の際に使用する資料や同意書の作成も治験コーディネーターが担います。
被験者のスケジュール管理
来院日・検査日・投薬日など、被験者のスケジュール管理も治験コーディネーターの業務の一つです。
治験実施計画書にある許容範囲内で被験者の来院日を調整し、電話・メールでの連絡に対応します。
医師による事前の診察にも同席し、服薬状況の確認や管理などを担います。
症例報告書(CRF) の作成補助
医師の指示のもと、治験の成果を症例報告書(CRF)に記録していきます。
被験者の投薬記録や検査結果などをフォーマットにしたがって記すものです。
有事の対応
被験者に副作用が起こった際の初期対応をとります。
副作用の内容や状況を医師に報告し、適切な処置を働きかけます。
治験終了後(報告書の作成・保管)
治験の経過や結果などのデータは症例報告書として記し、終了後に治験終了報告書としてまとめます。
最終的に確認するのは医師ですが、下書き段階のデータをまとめるのは治験コーディネーターの業務です。
報告書には、治験の実施件数・被験者数・安全性や有効性などの結果概要を記載します。
報告書は治験コーディネーターが定められた期間保管します。
治験記録の資料は保管期間が決まっているため、案件ごとに確認が必要です。
治験コーディネーターの業務内容・一日の流れ
治験コーディネーターの役割と仕事内容を見てきましたが、一日の仕事の流れはどのようなものなのでしょうか。
一般的な治験コーディネーターの一日のスケジュール例を紹介します。
- SMO(治験施設支援機関) から病院やクリニックに派遣されている例
9:00~9:30 | 派遣先医療機関へ直接出勤 メールチェックとスケジュール確認 |
9:30~10:30 | 来院予定被験者チェック・準備 (カルテ確認、検査キット・治験薬の準備など) |
10:30~12:00 | 被験者対応 (体調確認、検査値確認、医師診察同席、次回スケジュール確認、治験薬服用分お渡し、協力費支払いなど) |
12:00~13:00 | 昼休憩 |
13:00~14:00 | 被験者対応の後処理 (症例報告書記入、検体処理・保管、次回来院準備など) |
14:00~15:30 | 被験候補者対応 (候補者の医師診察同席、インフォームドコンセント補助、(参加決定の場合)次回来院日の調整など) |
15:30~16:30 | 被験者対応 |
16:30~17:30 | 被験者対応の後処理 |
17:30~18:00 | メールチェック、日報作成 |
SMOから派遣される治験コーディネーターは、基本的に派遣先の医療機関に直行・直帰します。
治験準備から終了後までの全体の流れを、医師や各担当部署と協働しながら進めていきます。
被験者対応では、検査値確認などの事務的な作業もありますが、被験者と会話しながら気持ちを和らげることも大切です。
上記は一日の例になりますが、スケジュールどおりに進まないこともあります。
被験者のトラブル対応や、状況によって治験数の追加が必要となるなど、予定変更も多く発生するものです。
自分の想定しているスケジュールにとらわれすぎず、優先順位を決めながら臨機応変に進めることが求められます。
医療機関での治験コーディネーターの働き方
治験コーディネーターの働き方は、おもに二つに分けられます。
- SMO(治験施設支援機関)から医療機関への派遣
SMOは、製薬会社と医療機関の間にたって、治験業務をサポートする民間企業です。
ここに所属して病院などの医療機関に派遣され、治験コーディネーターとしての業務に従事します。 - 医療機関の院内での就業
病院や研究センターなどの医療機関に就職し、機関専属の治験コーディネーターとして働くパターンもあります。
看護師や薬剤師として働いていた人が、同一医療機関内での人事異動で就く場合があるため、SMO所属の治験コーディネーターと比較して求人数は多くありません。
勤務形態としては、どちらの働き方でも基本的に土日祝休み・残業なし・日勤で働くことができます。
また、派遣先からの直帰もあり、定時より早く退勤できる場合もあります。
治験コーディネーターになるには
では、そもそも治験コーディネーターになるためにはどうしたら良いのでしょうか。
資格が必要なのか、気になる人もいるでしょう。
ここからは、以下の2つに着目します。
- 資格は必須ではないが優遇される
- SMOに雇用されることが必要
資格は必須ではないが優遇される
治験コーディネーターになるために特別な条件はなく、資格も不要です。
しかし、医療や医薬品に関する知識が欠かせないため、医療系の国家資格を持っている人も少なくありません。
また、病院勤務経験のある人が優遇されることもあり、医療関係の情報に精通している人が採用されやすい傾向です。
現役治験コーディネーターの保有資格について、日本SMO協会が2023年に実施した調査によると、SMO(治験施設支援機関)で働く現役治験コーディネーターのうち、70%以上が医療系の国家資格を有していることがわかりました。
保有国家資格としては、臨床検査技師、看護師、管理栄養士、薬剤師の順に多くなっています。
医療資格を保有せず治験コーディネーターとして勤務している人は、全体の28.3%にとどまります。
参照:日本SMO協会
SMOに雇用されることが必要
治験コーディネーターの働き方としては、SMO(治験施設支援機関)からクリニックや病院に派遣されるパターンと、医療機関で院内治験コーディネーターとして働くパターンの二つがありますが、大半は前者となります。
院内治験コーディネーターは、同一医療機関で臨床検査技師などとして勤務していた人が部署異動して就くケースが多いため、新しく求人が出ることはほとんどありません。
そのため、医療機関に勤務していない人が新たに治験コーディネーターになるには、SMOに雇用されることが必要となります。
治験コーディネーターの年収
令和4年の賃金構造基本統計調査によると、治験コーディネーターの給料の平均は443.4万円 です。
また、令和4年度のハローワークの求人統計データによると、月給は23.3万円となっています。
なかには年収1,000万円以上で募集する求人もあり、キャリアアップによって高収入をめざすことも可能です。
なお、東京の年収は432.9万円 となっています。
治験コーディネーターの将来性
日本SMO協会の調査データでは、CRCの数は2013年をピークに減少傾向にあることが示されています。
参照:日本SMO協会
しかし、これだけで治験コーディネーターの将来性を判断すべきではありません。
例えば、独立行政法人医薬品医療機器総合機構発表の「治験計画届出件数の推移(薬効別分類)」によると、抗悪性腫瘍薬の治験開発は増加傾向にあります。
分類によっては、今後も治験に対する安定した需要は期待できるといえるでしょう。
なお、治験コーディネーターの将来性に関する詳細は以下ページを参考にしてください。
治験コーディネーターはきつい?
治験コーディネーターはときに、きつい・つらいというネガティブな意見もあります。
それは一体なぜなのでしょうか。
以下のような理由が考えられるでしょう。
- 医師や医療スタッフとのコミュニケーションが大変
- 細かい事務作業が大変
- ルールや専門用語を覚えなければならない
- 休日対応がありプライベートを確保しづらい
もちろん、治験コーディネーターは楽な仕事ではありません。
しかし、新薬の開発に携われる非常にやりがいが大きい仕事でもあります。
大変な面を一つずつクリアし、自分自身の適正や職場の環境などを見極めながらチャレンジすることで、大きな達成感を得ることが可能です。
治験コーディネーターが本当にきつい仕事なのかどうか、より詳しく知りたい方は次のページをご確認ください。
治験コーディネーターに向いている人
では、治験コーディネーターに向いている人はどのような人なのでしょうか。
考えられる特徴は以下のとおりです。
- 真面目で慎重な人
- 柔軟に対応できる人
- 想像力が豊かな人
- 責任感がある人
- 素直で謙虚な人
- ものごとを俯瞰的に見る力がある人
- コミュニケーション能力が高い人
治験コーディネーターに向いてない人の特徴もあります。
向いている人・向いていない人について詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。
治験コーディネーターの目的は被験者に安心して治験を受けてもらうこと
今回の記事では、治験コーディネーターの概要と仕事内容、資格、年収などを、全般的に紹介しました。
治験をスムーズに進めるためには、被験者に安心して治験を受けてもらうことが大切です。 被験者の相談にのることもよくあるため、治験コーディネーターにはコミュニケーションの得意な人が向いているでしょう。
治験コーディネーターは資格がなくても働けますが、現役治験コーディネーターの多くが医療系の国家資格を有しており、医療関係の勤務経験者が採用されやすい傾向にあります。
治験コーディネーターの仕事についてよく知り、信頼される治験コーディネーターをめざしましょう。