
少子化の時代とはいえ、妊娠や出産は決してなくなることがありません。
妊娠や出産は一組一組の親子にとって大切な時期です。
周産期医療で、産婦人科医とともに大切な役割を担うのが助産師です。
しかし日本では全国的に、助産師の人手不足が深刻となっています。
助産師の人手不足は、一体なぜ起きているのでしょうか。
ここでは助産師不足の理由を紹介していきながら、周産期医療が現在抱える問題点を解説します。
また、助産師不足解消のためにどのような取り組みが行われているのかについても説明します。
目次
そもそも日本に助産師は何人いる?
日本には一体何人の助産師がいるのでしょうか。
厚生労働省のデータを見ると、2018年時点で全国に36,991人の助産師がいることがわかります。
2008年から2年ごとに集計されたデータの推移を見ると、助産師の数は増えてきています。
また、2018年と2016年の調査結果と比べても1,137人増えているのです。
データからわかるのは、助産師の数は決して減少しているわけではないことです。
ただそれでも周産期医療の現場では、助産師不足が指摘され続けています。
一体その原因はどこにあるのでしょうか。
日本の助産師が人手不足になっている2つの理由
日本で助産師が人手不足になっている理由には、大きく分けて人材の需要に対する供給不足と離職率の高さの2つがあります。
両方とも助産師を含む看護師全体の人材不足の原因でもあるものです。
それぞれの中身を、もう少し掘り下げて見ていきましょう。
理由① 現場の人材需要に対する助産師の人数がそもそも足りない
日本看護協会が公表した『2018年病院看護実態調査』を見ると、人材の需要に対して助産師の人数が足りていない現状が浮かび上がります。
前年度より職員の数を増やす予定である病院の数は全体の1/3以上
『2018年病院看護実態調査』では、調査に参加した病院のなかで前年度より助産師を含む看護師の数を減らしたいと回答した病院は非常に少ないのです。
全体の3分の1以上の病院が、前年度より看護師を増やしたいとしています。
助産師の求人倍率は2015年のハローワーク梅田のデータで1.14倍と、供給より需要の方が高くなっています。
この状況でさらに人数を増やしたいと考えている病院が多く、全体的に人材が足りていないこともわかるでしょう。
「前年度と同等数の職員」と回答した病院は全体の半数以上
同じく『2018年病院看護実態調査』によると、半数以上の病院が前年度の助産師を含む看護師の数を維持する予定と回答しています。
同等数の職員を維持すると聞くと、新たに助産師を採用する必要がないと考えるかもしれません。
しかし、現場の助産師が一人もやめないのは考えにくいでしょう。
現状維持でも助産師が離職する度に新たに採用する必要が生じるため、求人が発生します。
厚生労働省が取りまとめた『看護職員確保対策について』によると、2011年から2025年までに助産師を含む看護師の必要数が50万人増えると試算しています。
全体の助産師の数は増えていっていても、なかなか需要には追い付いていないのが現状です。
理由② 10人に一人が離職している
助産師の数が不足しているのは、約10%ある看護師の離職率も影響しています。
助産師を含む看護師の離職率は日本全体の離職率と比べて、決して高いわけではありません。
しかし人材の需要が追いついていないなかで、10人に一人がやめているのです。
これが人材不足へ、さらに拍車をかけています。
離職する原因の多くは人手不足によるもの
お産は週末や祝日それに夜間など、いつ始まるかわかりません。
助産師の仕事は夜勤もあります。
また、お産が始まるタイミングと勤務交代のタイミングが重なるなど、残業が発生するかもしれません。
仕事の厳しさに拍車をかけるのが、現場の人材不足です。
助産師を含む看護師が離職したいと考えている理由に、仕事の忙しさがあげられます。
助産師の不足が助産師の離職の原因になり、さらに助産師不足に拍車をかける悪循環に陥っている側面もあるのです。
離職率自体は横ばい
助産師を含む看護師の離職率は2013年から2018年まで、約10%とほぼ横ばいになっています。
助産師の不足は、何年も問題になっているのです。
2014年には医療法や雇用保険法の改正、2015年には看護師等人材確保促進法改正などがありました。
このように、これまで助産師の人数を確保するためにさまざまな対策がなされています。
しかし、離職率の改善にはつながっていないのが現状です。
今後助産師の離職率を下げるために、さらなる対策が求められます。
あらためて問われる周産期医療の問題点とは
助産師が不足する原因には、周産期医療における労働環境の問題点も関係しています。
助産師の労働や負担に見合った報酬が、支払われているといえないケースもあります。
ハイリスク妊婦に対応できる助産師が育っていない
適切な対応を行わないと母子ともに危険な状態になるハイリスク妊婦には、知識や経験が豊富な助産師が必要です。
しかし、慢性的な人手不足が起きている現場では、助産師に対する実践能力の強化が課題となっています。
労働に見合う対価が支払われていない
助産師の労働環境と平均年数について、詳しく見ていきます。
助産師の年収は570万円程度
助産師の平均年収は勤務先などによって、ある程度幅はあるものの570万円程度です。
日本全体の平均年収は460万円程度で、女性だけの平均年収は280万円程度です。
単純に年収だけ見ると、助産師の給与は悪くないといえるでしょう。
ただ助産師の仕事は夜勤や残業があるのはもちろん、母子の命を預かる責任が大きい仕事です。
背負った責任や仕事の大変さと照らし合わせた際に、年収がそれに見合うものなのか、疑問に感じる方もいるでしょう。
助産師の不足で残業が多く発生する
助産師の慢性的な不足によって十分でない人数で現場を回していると、必然的に助産師の残業が増えます。
月に20時間以上残業している助産師は4分の1近くいるとされ、若い助産師に残業が多い傾向もあります。
お産に関わるため、ある程度残業が発生するのは仕方のない面があるでしょう。
問題は、残業代がきちんと支払われているとは言い難い点です。
時間前の準備や持ち帰りの分などは、担当助産師の善意とされる風潮が残る職場も、まだまだ存在します。
ただ労働意欲を保ち離職率も下げるためには、働いた分の対価がきちんと支払われることがたいへん重要です。
助産師の離職を減らすための働き方改革を紹介
助産師の不足の問題に向き合い、離職を減らすための対策をしている病院もあります。
ここでは実際に行われている、助産師の働き方改善の対策を紹介します。
各病院ごとの努力
静岡市立静岡病院の助産師働き方改革の例を見ると、まず有給休暇制度の充実です。
年間20日の有給制度を導入しているだけでなく、取得の促進も行っています。
日頃の業務で疲れた心身を休める機会を設けているのです。
また助産師の離職のタイミングで多いのが、結婚や出産のタイミングです。
育児中でも仕事を続けられるように時短制度が導入されています。
また、院内保育園の設置といった対策もなされています。
周産期医療における助産師の役割
助産師の仕事は、お産の手伝いと考えている方が多いものです。
しかし、実際の仕事はさらに広範囲にわたります。
ママと赤ちゃんの健康管理や母乳育児のアドバイスなど、妊娠中から産後の女性や赤ちゃんを支える存在です。
もともと正常なお産の場合は医師なしで立ち会えます。
病院で働く以外にも、独立して助産院を運営するなど、さまざまなキャリアパスを描ける仕事です。
病院や助産院のなかには、助産師が妊婦検診をする助産師外来を設けているところがあります。
助産師の資格は、看護師資格を持っていて初めて取得できるものです。
助産師は看護師としてまとめられることが多いものの、看護師よりもさらにできることや活躍の範囲が広くなっています。
助産師不足を解消するために頑張ってみよう
さまざまな課題を抱える助産師の世界ですが、生命の誕生という特別な環境で働けるという素晴らしさもあります。
人手不足を解消するためにも、一人前の助産師としての技術を高めながら、ハードな環境で日々頑張れるよう取り組んでみましょう。